320時間・220時間・日本語100時間の違いを解説

はじめに
2027年4月に始まる育成就労制度では、外国人が日本へ入国した後、実際の業務を始める前に「入国後講習」を受けます。
ここで、監理団体や受入企業からよく聞かれるのが、次のような疑問です。
入国後講習は全員320時間なのか
日本語講習は全員100時間必要なのか
220時間と320時間は何が違うのか
入国前に日本語を学んでいれば短縮できるのか
オンラインで実施してもよいのか
特に注意したいのは、「入国後講習全体の時間」と「日本語講習100時間」は別のものだという点です。
本記事では、出入国在留管理庁・厚生労働省編『育成就労制度 運用要領』を基に、入国後講習の時間数、日本語教育、オンライン実施、講師資格について整理します。
1.入国後講習は、日本語だけの講習ではない
【事実】
育成就労制度の入国後講習は、主に次の4つの科目で構成されます。
日本語
日本での生活一般に関する知識
育成就労外国人の法的保護に必要な情報
日本で円滑に技能を修得するための知識
つまり、入国後講習は単なる日本語学校ではありません。
日本で生活するためのルール、労働関係法令、相談先、安全に仕事を始めるための知識などを含む、就労開始前の総合的な導入教育です。
講習は原則として、1日8時間以内、週5日以内で実施されます。また、法的保護に関する講習は、一定時間以上を確保し、専門的な知識を持つ適切な講師が担当する必要があります。
2.入国後講習は、A1相当試験の合否によって時間が変わる
入国後講習の総時間数は、育成就労外国人がA1相当の日本語能力試験に合格しているかどうかによって異なります。
日本語能力の状況 | 入国後講習の原則的な総時間数 | 日本語講習 |
|---|---|---|
A1相当試験に未合格 | 320時間以上 | A1相当を目標とする講習を100時間以上 |
A1相当試験に合格済み | 220時間以上 | 本人の能力、分野、地域等に応じて必要な講習を実施 |
A1相当試験に合格していない場合は、入国後講習全体を320時間以上実施し、その中に、A1相当を目標とする日本語講習を100時間以上組み込む必要があります。
一方、すでにA1相当試験に合格している場合は、入国後講習全体が原則220時間以上となります。
この場合、日本語講習が一切不要になるわけではありません。本人の日本語能力、従事する分野、勤務する地域などに応じて、必要な日本語教育を実施します。
3.「全員が日本語100時間」ではない
育成就労制度について、
入国した外国人は、全員、日本語を100時間受けなければならない
とするのは正確ではありません。
入国後講習の中で、A1相当を目標とする日本語講習100時間以上が明確に必要になるのは、原則としてA1相当試験に合格していない人です。
すでにA1相当試験に合格している人については、一律に100時間と定めるのではなく、本人の能力や就労環境に応じて必要な講習を行います。
混同しやすい2つの日本語教育
教育の時期 | 主な目標 | 対象・考え方 |
|---|---|---|
就労開始前の入国後講習 | A1相当 | A1相当試験に未合格の場合、100時間以上 |
育成就労期間中 | A2相当 | A2相当を目標とした継続的な日本語教育 |
就労開始前のA1相当講習と、企業で働き始めた後のA2相当目標講習は、目的も時期も異なる別の仕組みです。
ここを混同すると、受入れ後の教育計画や費用計画を誤る可能性があります。
4.入国前講習を受ければ、入国後講習を短縮できる場合がある
【事実】
制度上の条件を満たす入国前講習を、入国前の一定期間内に受けている場合は、入国後講習の時間数を短縮できる仕組みがあります。
A1相当試験 | 通常の入国後講習 | 条件を満たす入国前講習を受けた場合 |
|---|---|---|
未合格 | 320時間以上 | 入国前に160時間以上受講した場合、入国後160時間以上 |
合格済み | 220時間以上 | 入国前に110時間以上受講した場合、入国後110時間以上 |
ただし、海外で日本語を勉強していれば、どのような授業でも自動的に短縮対象になるわけではありません。
入国前講習として認められるためには、実施時期、時間数、講習内容、講師、実施記録などの条件を確認する必要があります。
監理支援機関は、送出機関から「入国前に日本語教育を実施済み」と報告を受けた場合でも、口頭説明だけで判断しないことが重要です。
少なくとも、次の資料を確認することを推奨します。
講習実施期間
日ごとの時間割
総受講時間
講習科目
講師情報
受講者名簿
出席記録
修了証明
使用教材
オンラインの場合の接続・受講記録
5.入国後講習中は、原則として仕事をさせられない
入国後講習は、育成就労外国人が講習に専念する期間です。
入国後講習を受けている間は、育成就労に関する業務へ従事させず、講習に専念できる措置を取らなければなりません。
そのため、人手が足りないことを理由に、
午前中は講習、午後は工場で作業
忙しい日だけ現場を手伝ってもらう
研修の一環として実際の生産作業を行わせる
といった運用は避ける必要があります。
見学や安全教育と、企業の生産活動に従事することは区別しなければなりません。
運用要領では、育成就労外国人の待遇に関する認定基準の中で、「入国後講習への専念措置」が明確に位置付けられています。
6.通常の監理型では、監理支援機関が入国後講習を実施する
一般的な監理型育成就労では、入国後講習は原則として監理支援機関が実施します。
ただし、すべての類型で監理支援機関が実施するわけではありません。
単独型育成就労や、一定の密接な取引関係がある外国機関から人材を受け入れる類型では、育成就労実施者が実施主体となる場合があります。
また、実施主体が、講習の一部を制度上適切な外部機関や専門家へ委託することも想定されています。
7.オンライン講習は可能。ただし、録画視聴だけでは足りない
入国後講習は、対面だけでなく、一定の条件を満たせばオンラインで実施することも可能です。
オンライン講習として認められるためには、インターネット環境を整え、講師と受講者が音声と映像を使って、同時かつ双方向に意思疎通できる方法で行う必要があります。
したがって、あらかじめ録画された動画を視聴するだけのオンデマンド型学習は、それだけで法定の講習時間として扱うことはできません。
また、オンラインで実施した場合は、その実施方法と、実際に講習を行った事実を客観的に確認できるよう、適切な記録を残す必要があります。
注意が必要な運用
録画教材を視聴させるだけ
講師が一方的に話し、受講者の応答を確認しない
カメラを長時間切ったまま受講させる
接続したまま離席していても出席扱いにする
入退室時刻だけで100時間を計算する
通信切断や途中退室を記録しない
講師名、授業内容、実施日時が残っていない
接続履歴は重要な記録ですが、それだけで実際の受講状況を十分に説明できるとは限りません。
8.日本語講習を担当できる人にも条件がある
制度上のA1相当目標講習は、原則として、認定日本語教育機関に設置された「就労のための課程」で実施されます。
また、当分の間の経過措置として、一定の条件を満たす登録日本語教員による講習も認められています。
経過措置を利用する場合には、登録日本語教員であることに加え、教育内容、実施方法、クラス規模などの条件を満たす必要があります。
登録日本語教員1人に対して、同時に講習を受ける学習者は20人以下とされています。
したがって、これまで日本語を教えていた人であっても、
監理団体の職員
通訳担当者
企業の日本人社員
地域の日本語ボランティア
というだけでは、制度上の100時間講習を担当できるとは限りません。
「日本語を教えられる人」と「育成就労制度の講習を担当できる人」は、同じではないため注意が必要です。
まとめ――「100時間」だけでなく、入国後講習全体を設計する
育成就労制度の入国後講習について、最も注意すべきなのは「日本語100時間」だけを切り取って考えないことです。
A1相当試験に合格していない場合、入国後講習全体は原則320時間以上であり、その中にA1相当を目標とする日本語講習100時間以上が含まれます。
すでにA1相当試験に合格している場合は、入国後講習全体が原則220時間以上となり、日本語については本人の能力や就労環境に応じた講習を行います。
さらに、入国前講習の実施状況によっては時間を短縮できる場合がありますが、単に海外で日本語を勉強しただけではなく、制度上の条件を満たしているかを確認しなければなりません。
オンラインでの実施も可能ですが、録画視聴だけではなく、音声と映像を使った同時双方向型の授業と、客観的な実施記録が必要です。
監理支援機関や受入企業に求められるのは、単に「100時間の授業先を探す」ことではありません。
入国後講習全体の時間割、講師、教材、出席管理、振替、記録保存までを含めて、就労開始前の教育体制を整えることが重要です。
※本記事は、2026年7月時点で公表されている育成就労法、関係省令および『育成就労制度 運用要領(2026年4月6日改正版)』を基に作成しています。対象となる日本語試験、講習の実施方法、分野別の追加要件、経過措置等は今後変更される可能性があります。実際の受入れに当たっては、出入国在留管理庁、厚生労働省、外国人育成就労機構および分野所管省庁の最新情報をご確認ください。
